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あなたのとりこ 21 [あなたのとりこ 1 創作]

「午前中に完了するんだろうね?」
「まあ大丈夫でしょう」
 刃葉さんのその受け応えに山尾さんは疑わしそうな目付きをするのでありました。
「この梱包仕事のために、何時も定期で行って貰っている宇留斉製本所の仕事を午後一番に回したんだから、午前中に終わって貰わないと困るよ」
 宇留斉製本所と云うのは月曜日午前中に制作部の定期便として行くべき、池袋にある製本所の名前でありましょう。そこへの出来上がった製品引きとり兼、新たな材料搬入の仕事は、先に片久那制作部長から制作部関連で説明された業務の仕事でありますから、何時もは刃葉さんが担当しているという事になりますか。
「大丈夫ですよ」
 刃葉さんは如何にも軽そうな口調であっさり請け合うのでありました。
「宇留斉製本所のおばちゃん達は何やかやと逐一、こっちの手落ちと見たら口煩い苦情を云ってくるだから、ちゃんと昼一番に行かないとまた文句の電話が掛かってくる」
「ああ確かにあそこの人は面倒臭いですからねえ。しかしそれを心配しているのなら俺にではなくて、今朝急にこの梱包の仕事を入れた営業部長に文句を云ってくださいよ」
 刃葉さんが口の端に笑いを留めて抗弁するのでありました。何やら、嫌に他人事のような、それは無責任と文句を付けたくなるような云い草でありました。
「まあ兎に角、宇留斉製本所には時間通りに行ってくれよ」
 山尾さんは刃葉さんの抗弁に忌々しそうに顔を歪めるのでありました。刃葉さんは特段それに返事する訳でもなく無表情の儘手を動かし続けるのでありました。

 倉庫から再び上の事務所に戻る階段の、二段先を歩く山尾さんの背中辺りに向かって頑治さんが訊ねるのでありました。
「あの刃葉さんがひょっとしたら自分の直接の上司、と云う事になるのでしょうか?」
「いやまさか、そうじゃないよ」
 山尾さんは歩を止めずに後ろを振り返るのでありました。「刃葉君はあと二か月足らずで会社を辞めるんだからね」
「ああそうなんですか」
 頑治さんはそれは知らなかった、と云う少しの驚きを語調に込めるのでありました。
「営業部長から聞かなかった?」
「いえ、そう云う事に付いては何も」
「だから刃葉君の後釜として唐目君を雇ったんだから」
「ああそう云う事ですか」
 初耳でありました。まあ、この後土師尾営業部長からその辺の経緯について頑治さんに説明があるのかも知れません。と、その時頑治さんは考えたのでありましたがしかし後日談として云えば、結局土師尾営業部長からは頑治さんを雇った事情についての説明は一切ないのでありました。多分うっかり云いそびれたのでありましょうが。・・・
(続)
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