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あなたのとりこ 20 [あなたのとりこ 1 創作]

 とこれは、姿の見えない刃葉さんに対して舌打ちしながらの山尾さんの言葉でありますが、独り言なのか頑治さんに聞かせる繰り言なのか良く判らないのでありました。
 作業台の上には梱包途中の段ボールがあって傍にビニールバンドの切れ端やら結束用の金具、それに緩衝材代わりの新聞紙を丸めた塊が乱雑に転がっているのでありました。刃葉さんは作業途中でのっぴきならない用が出来て姿を消したと云った風情であります。
 頑治さんは棚のあちらこちらを山尾さんに引き回されて説明を受けるのでありました。メモ帳に棚の簡略な見取り図を描いて、商品一覧と突き合わせしながら説明を受けるのでありましたが、材料類が多過ぎて一遍には上手く覚えられないし整理も付かないのでありました。これはここでたじろぐよりも徐々に覚えていくしかないでありましょう。
 それにまた山尾さんの説明も一覧表に記してある順を追って、と云う訳ではないし棚の並び順と云うのでもなく、あっちへ連れて行ったりこっちへ手招きしたりの思い付き任せと云う具合だったので頑治さんは多少混乱するのでありました。もう少し整然とした説明だったら良いのにと頑治さんは口の中で愚痴を零すのでありましたが、しかしそう要望するのも憚られて、こうなったら棚に順に番号を振って商品一覧表にある商品も材料もその番号を割り当てて、後で落ち着いて頭の中を整理整頓した方が良いでありましょう。
 二十分程で一通り山尾さんの説明が終わるのでありました。ちょうどそこに姿を消していた刃葉さんが戻って来るのでありました。
 刃葉さんは倉庫内に頑治さんを見付けて不審そうな目を向けるのでありました。
「刃葉君、何処に行っていたんだ?」
 山尾さんが、刃葉さんが頑治さんを見るのと同じ目容で訊ねるのでありました。
「ああいや、ちょっと」
 刃葉さんはやや気まずそうな物腰で応えるのでありました。
「何か煙草とコーヒーの匂いがするなあ。喫茶店にでも云っていたのか?」
 山尾さんにそう云われて刃葉さんは少したじろぐ仕草を見せるのでありました。すぐにきっぱり否定しないところを見ると図星なのでありましょう。刃葉さんは、恐らく自嘲なのか、或いはひょっとしたら太々しさの表明なのか、曖昧な微笑を口の端に浮かべて作業台の前に進んで行って途中で止めていた梱包作業を再開するのでありました。
「仕事中に無断でまたコーヒータイムか。そんな事をしたら駄目じゃないか」
 山尾さんが作業台の横から苦言を呈すのでありました。山尾さんが「また」と云うところを見ると、そう云う横着はこれが最初と云うのではないのでありましょう。
「はあ。作業の効率が落ちたんで、ちょっと息抜きをしていたんですよ」
「今まで何個、梱包を終えたんだい?」
 山尾さんにそう訊かれて刃葉さんは後ろをふり返って壁際に置いている梱包を終えた段ボールの数を数える目つきをするのでありました。
「五箱、ですかね」
「あと何個荷物を作るんだい?」
「残り七箱ですね」
(続)
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