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お前の番だ! 592 [お前の番だ! 20 創作]

「角鼻しぇんしぇいに武道の芽ば育てて貰うたからて思うとります」
 万太郎はなかなかそつのない事を云うのでありました。それを聞いて角鼻先生は嬉しそうに何度か頷くのでありました。
「この前の日本武道館の古武道演武大会の演武とか、剣道とか合気道の現代武道の大会でお前がゲストで出て、そこでもえらい好評やったらしかね。九州の方にもちゃんと伝わってきとるばい。テレビのニュース番組でちらって出とったとば見たばってん、確かに颯爽としとってなかなか格好の良かった。まあ、ちょっと派手過ぎとは感じたばってん」
 角鼻先生は全体としはて好意的な評言ながら、実戦本位の捨身流の古武道家でもあるから、演武の大向こう受けに対して少し体を斜にして見せるのでありました。
「畏れ入ります。ご教誨ば肝に銘じます」
 万太郎は口を引き結んで格式張ってお辞儀するのでありました。
「そいに、こぎゃん良かオナゴば嫁に貰うて、お前はなかなかの果報者ぞ」
 角鼻先生に顔を向けられてあゆみは、恥ずかしそうに数度小さく首を横にふりながら、恐縮の態で頭を下げるのでありました。
「いいや、嫁に貰うたとじゃのうて、オイが婿に行ったとです」
 万太郎が訂正するのでありました。
「ああそぎゃんか、そいで常勝流の跡目ば継ぐ事になったとか」
「そぎゃんです」
「そのお前に小まか時オイが剣道ば教えたて云うとは、今ではオイの自慢ぞ」
「今でも角鼻しぇんしぇいのお教えは、決して忘れとりません」
 この辺の受け応え等、なかなか万太郎も錬れてきたと云うものでありましょう。万太郎の物腰がこの数か月で大いに変貌した事に、あゆみは秘かに驚嘆するのでありました。
 角鼻先生はこの際だからと、万太郎とあゆみに常勝流の剣術の講習を強請るのでありました。万太郎とあゆみは勿論そう云う事になるだろうと出かける前から予想していたので、ちゃんと稽古着は持参して来ているのでありました。
 捨身流道場の数人の高弟を相手に万太郎とあゆみの俄講習でありましたが、常勝流剣術の形の他に門弟達と万太郎は乱稽古にも及ぶのでありました。この場合剣道竹刀ではなく木刀を以って立ちあうのでありましたし、面胴小手の防具もつけないのでありましたから、勿論捨身流は木刀稽古もするにしろ、普段から剣道試合に慣れた捨身流の門弟よりは、木刀稽古一本槍の万太郎の方が些か有利と云うものでありましょうか。
 幾ら友好的な稽古であるとは云いながらも、云ってみれば他流試合の真剣勝負の趣でありますから、万太郎はつけ入る隙を全く与えないのでありました。偶に木刀が搗ちあうとしても、真っ向から打ちあわせるのではなく掠るようなあわせを専らとして、万太郎の間合いの内で、主導権は相手に絶対に譲らないのでありました。
 しかしこう云う場で決定的に勝つと云うのも大人気ない仕業で、万太郎は時に相手にだけ判らせるような、ごく小さな動きの小手打ちを繰り出すのでありました。対峙する者にのみ万太郎の優位を秘かに伝えれば、要はそれで良いのであります。
(続)
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