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お前の番だ! 591 [お前の番だ! 20 創作]

「主だった対外行事や会合、演武会等の招待には、宗家代理としてお前が出るように」
 是路総士のこの指令は、万太郎を常勝流の新しい顔として売り出そうと云う腹積りからありますし、武道界全体に万太郎が常勝流の正式な継承者さである事を公然化する狙いであります。万太郎自身も武道界に限らず様々な世界の様々な人士と交流して、その交誼を得て次期宗家としての人脈形成に努めよと云う命でもありましょう。
 人づきあいが苦手と云うわけではないのでありましたが、万太郎は格式張ったつきあいは余り得意と云う程ではないのでありました。ざっくばらん、が本来の自分の持ち味であろうと、あやふやながらも今までそう考えていたのでありましたし。
 しかし是路総士の指令とあらば、ここは一つ何をさて置いても奮発しなければならないのであります。だからと云って、自分が下手に気負うと碌な事がないと思いなしている万太郎としては、常勝流の威名を失墜しない程度に自ら腰を低くして、どんな癖のある人士ともなるだけ友好的に、未だ々々若輩である事を始めから謙虚に表明して、懇ろなヤツと云う印象を相手に持って貰うべく、当人なりに大いに奮闘するのでありました。
 その甲斐あってか万太郎の名前は武道界の重鎮方にも、取り巻く異世界の諸人士にも、概ね好意的に認知されるようになるのでありました。特に古武道に限らず他武道の演武会とか試合大会の招待演武に於いて万太郎の演武は好評を博し、時には是路総士を差し置いて、お宅の若先生に是非、等と名指しで出場を請われる場合もあるのでありました。
「総務長先生の演武には、ワシ等は疎か、総士先生でもお持ちでない何とはなしの緊張感とか、それに華やかさとか明朗感とかがあるからなあ」
 これは鳥枝範士の評でありました。
「そりゃあ鬼瓦のような顔の鳥枝さんの如何にも無骨な演武なんかより、総務長先生の若々しい溌剌とした演武の方が観ていて心躍るのは当たり前だ」
 寄敷範士はそう云って鳥枝範士を茶化すのでありました。
「世間の常勝流の認知度も、これからグッと上がるかも知れない」
「総務長先生の演武を見て、門下生が今以上に増えて、そうなると我々ももっと忙しくなるし、それにこの随分と年季の入った総本部道場では手狭になるかも知れないなあ」
「結構々々。そうなれば、もっと広くて立派な道場を鳥枝建設でおっ建てるまで」
 鳥枝範士はそう云って豪快に笑うのでありました。
 是路総士の粋な計らいからか、万太郎への秘伝伝授が終わってから、万太郎とあゆみ夫婦は二人揃って、熊本支部への出張指導に赴いた事があるのでありました。勿論万太郎の里帰りがその謂いと云う趣の旅行でありました。
 その折、人吉の万太郎の実家で大歓待を受けたのは云う迄もないのでありましたが、万太郎が少年時代に通っていた捨身流の剣道道場からの招待があるのでありました。絶えて久しく往来のなかった捨身流の角鼻庫仁宗家は、往時の眉太でへの字口の強面の面影その儘ながら、相好を崩して万太郎とあゆみ夫婦を大いに歓迎してくれるのでありました。
「万太郎の勇名はこっちにもちらほら聞こえてきとるばい」
 角鼻庫仁宗家は万太郎の背を長年修行に明け暮れた分厚い掌で叩くのでありました。
(続)
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