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お前の番だ! 589 [お前の番だ! 20 創作]

「あら、でも、あたしの方が先だと思うわよ」
「いやあ、僕の方が先ですね、どう考えても」
「そうかしら。屹度そうじゃないと思うんだけど」
「どっちでもよろしい」
 是路総士が呆れた顔で云い棄ててから残りの茶を飲み干すのでありました。「その辺は後で、二人になってからゆっくり云い争え」
 そう云われて万太郎とあゆみは顔を見あわせて笑みあうのでありました。是路総士としては二人の睦みあいにこれ以上つきあうのは馬鹿らしいと云うものであります。
「さて、風呂に入るか」
是路総士はそう云って話しを打ち切るように立ち上がるのでありました。
 序に云っておけば、威治元宗家からはその後には今に到るまで何の音沙汰もないのでありました。と云う事は矢張りあの祝電は単なる気紛れだったのかも知れません。
 しかし実は本当に我が身の事を真剣に考えて、是路総士にもう一度縋ってみる気になったはいいけれど、今にしてのこのこ顔を出すばつの悪さから、今一つ踏ん切りがつかなくて沙汰が出来ないでいるのかも知れません。人並み以上にある種の体裁や面子を気にするタイプの人でありますから、その可能性も充分に有ろうと云うものでもありますか。
 何れにしてもこちらとしては只管待つしかないでありましょう。威治元宗家の心根が奈辺にあるのか、その心根がどのくらい切羽つまったものであるのか、それとも全くそんな大袈裟なものではないのであるかは、威治元宗家本人しか知らないのでありますから。

 洞甲斐氏はどうやら武道を止めて仕舞ったようでありました。八王子の洞甲斐氏の家の近くに住む門下生の話しに依ると、万太郎が談判に赴いた数日後には常勝流の看板は取り外ずされたようでありましたし、それ以降威治元宗家との縁も、どちらからそうしたのかは知れないながら、全く途切れて仕舞ったようでありました。
 今現在は洞甲斐氏の家には、大宇宙の意志研究所、と云うのは元の儘でありますが、その横に、洞甲斐式ヨガ研究所、なんと云う新たな看板が掲げられているようであります。洞甲斐氏がヨガの研究もしていたとは、万太郎は初耳でありました。
 依って洞甲斐氏の近辺からは、武道っ気はすっかりなくなったようでありました。しかし武道がダメなら次はヨガと、もしそれもダメになれば屹度また別の何やらを看板に掲げるのでありましょう。なかなかに逞しいと云えば慎に逞しい御仁であります。
 嘗ての威治元宗家の興堂流改め、武道興起会の主催者となった田依里成介師範は、葛西の道場を堅実に運営しているのでありました。勿論以前の門弟数には遠く及ばないながらも、田依里師範を慕う門下生達もそれなりの数が集うようになって、新たな直系の支部も幾つか出来て、なかなかに忙しい日々を送っているようであります。
 その忙しさにかまける事なく、田依里師範は週に一度は必ず、葛西から調布の総本部道場に通って専門稽古に参加するのでありました。これは前に興起会を立ち上げる時、是路総士に直接自ら願った事で、それをちゃんと律義に実行しているのでありました。
(続)
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