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お前の番だ! 583 [お前の番だ! 20 創作]

 万太郎が総務長と云う地位に就いたので、あゆみの道場長と云う役職はなくなるのでありました。依って序列としては是路総士、万太郎、その下に鳥枝範士と寄敷範士、それからあゆみと花司馬範士は同格でそのまた下、最下位に来間、新内弟子の真入増太は新入りだけに前から居る準内弟子の連中よりも格下扱いでありますし、各地に散らばる支部長連はあゆみと花司馬範士と、その下の来間との間に位置する事になるのであります。
 万太郎は常勝流武道と云う流派の第二位の序列となるのでありましたが、勿論キャリアでは鳥枝範士と寄敷範士に遠く及ばないのでありましたから、万太郎はこの二人に対して何時でも謙譲な態度であるのは前の儘でありました。ところが鳥枝範士と寄敷範士は、多分に面白がってでありましょうが、万太郎に対して遜るのでありました。
 二人は万太郎に対して、態度の方は置くとしても言葉遣いとしては敬語を用いるようになるのでありました。これには当初、万太郎の方が大いに閉口するのでありました。
「鳥枝先生に、急にそんな風な物腰をされたりするとまごついて仕舞います」
 万太郎は眉根をきつく寄せて眉尻を下げられるだけ下げて、困惑窮まった顔をして見せるのでありましたが、鳥枝範士はそんな万太郎を平然と見下ろすのでありました。
「これまた総務長先生は何をおっしゃるか。そう云う辺りでワシや寄敷さんがきっちりと弁えた態度をとらなければ、他の者に対してどんな示しがつくと云うのですかな」
「それはそうかも知れませんし、その心映えは是とさせていただきますが、しかし僕の方が返ってオロオロして仕舞うではありませんか」
「ま、早く慣れていただくしかありませんな」
「当分の間はこれまで通り、と云うわけにはいきませんでしょうか?」
「全くいきませんな」
 鳥枝範士は鮸膠もないのでありました。寄敷範士の方にしても、万太郎の切なる懇願に対して首を縦にふる気配すら示さないのでありました。
「総務長先生は、この頃ようやく旦那として、あゆみに対して対等のもの云いをされるようになりましたが、その踏ん切りをこの寄敷と鳥枝に対してもお示しください」
 寄敷範士はそう云って、万太郎が余計困じるのを面白がるように笑うのでありました。この重鎮二人は共に、全く以って食えないのでありました。
 秘かに繰り言しても、あゆみも花司馬範士も万太郎の困惑を呑気に面白がるのみでありましたし、是路総士もそんな些事には一切無関心と云った風情でありました。それに来間も真入も他の準内弟子連中も、それは将来の宗家たる万太郎に謹恪な態度で接してはいるものの、内心は大いに万太郎の渋面を面白がっているに違いないのであります。
 万太郎がどんな窮地に在っても優しく寄り添ってくれる筈だった愛妻のあゆみを筆頭に、周りの連中悉くが、万太郎のこの窮状に対して慎につれない態度でありました。万太郎は孤立無援に、この尻の穴の周辺がムズムズするような落ち着きの悪い状況を、慣れるまでの暫くの間、仏頂面で耐え忍ばなければならない羽目に陥るのでありましたが、花司馬範士の一人息子たる少年部の剣士郎君だけは、前と変わらず万太郎に対して馴れ々々しく接してくれるのは、まあ、唯一の救いと云えばそう云えなくもないのでありましたか。
(続)
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