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お前の番だ! 569 [お前の番だ! 19 創作]

 指定の鋤焼き屋に着くと万太郎とあゆみは二階十畳間の個室へと招じ入れられるのでありました。そこには既に良平夫婦が座っていて、万太郎はあゆみ共々満面の笑顔で迎え入れられて、上座に揃って着座させられるのでありました。
「この度は慎におめでとうございます」
 良平夫婦は下座から律義なお辞儀をするのでありました。ざっくばらんな宴の心算で来たので、万太郎は良平の格式張った所作に先ず少しく戸惑うのでありました。
「ああ、良さん、どうも有難うございます」
 万太郎は慌てて答礼するのでありました。
「さて、お決まりの挨拶はこれで終わりとして、・・・」
 良平は畏まった顔を直ぐに解き、序に正坐にしていた足も胡坐に解くのでありました。それから横の香乃子ちゃんに指図して何やらの紙袋を差し出すのでありました。
「これ、あたし達からのほんのお祝いです」
 香乃子ちゃんがそう云って、紙袋をあゆみの手に渡すのでありました。
「ああどうも、有難うございます」
 あゆみは恐縮気に頭を下げるのでありました。
「良さん済みませんねえ、こんな事までして頂いて」
 少し遅れて万太郎も倣うのでありました。
「なあに、二人の結婚が決まったんだから、もっと豪勢なお祝いをと考えているんだが、これはまあその先付と云う事でご笑納願う、と云ったところかな」
「いやいや、もうこれで充分ですよ」
「因みにそれはこの前出張に行った先で買った唐子焼きのコーヒーカップセットだよ」
 良平は万太郎の遠慮を聞き流してその進物品の事を話し始めるのでありました。
「唐子焼きと云うと、長崎の、ですか?」
「そうそう。佐世保の三河内焼きだな」
「佐世保に出張に行ったのですか?」
「うん。そこの或る会社の本社建て替えを我が社でやる事になって、その契約にね」
「良君が社を代表して契約に行ったの?」
 あゆみが訊くのでありました。
「いえいえ、自分は社長の露払いですよ」
「でも万端取り仕切ったのは良君でしょう?」
「それはそうですが、まあ、遣い走りですね、自分の役回りは」
 良平は謙遜してそう云うのでありましたが、営業から契約までの一切を良平が切り盛りしたのでありましょう。良平は鳥枝建設の期待の星のようでありますから。
「熊本の実家では僕のご飯茶碗は唐子焼きでしたね。尤もそれは手書きと云うのではなくて安っぽいプリントの、丼鉢みたいな大きさの野暮なものでしたけど」
 万太郎は往時に使っていた飯茶碗を思い出すのでありました。
「そのコーヒーカップは一応手書きのものだよ」
(続)
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