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お前の番だ! 568 [お前の番だ! 19 創作]

 寄敷範士がそう宣すると一同から、異議なし、の声が上がるのでありました。
「理事の皆さん、どうも有難うございました。こうなった限りは、あゆみさんを一生かけて大事にしますと伴に、常勝流の発展のために益々微力を尽くす心算であります」
 万太郎が立ち上がって云うと、横に座っていたあゆみも一緒に立って、居並ぶ理事連に向かって二人して深々とお揃いにお辞儀をするのでありました。期せずして理事連から、おめでとう、やら、ようようご両人、やらの声と拍手が湧き上がるのでありましたが、こうなってはもう、到ってくだけた調子の理事会、と云うべきでありましょうか。
「さて、この件をご承認いただいたからには、本日の臨時理事会はこれにて目的を達した事になりまして、後はこの儘、日頃見ない理事さん達が久々に顔を寄せあった事ですから、ちょっとした宴会に流れたいと思いますが、・・・」
 寄敷範士が云いながら一同を見渡すと、すぐに緊張が解けたような吐息がそこここから聞こえて、場は一気にくつろいだ雰囲気となるのでありました。鳥枝範士がすぐに傍らにある内線電話と取り上げて何やら指示をすると、間もなく会議室のドアがノックされ、恐らく鳥枝範士の命により待機していたのであろう、良平と他に三人の鳥枝建設社員がビール瓶の入ったケースと寿司桶を掲げ持って会議室に入って来るのでありました。
 良平は入りしな万太郎を見るのでありましたが、その顔には満面の笑みが湛えられているのでありました。こうなった事を良平も喜んでいるのでありましょう。
 さて、この宴席でも、この後に席を移した鳥枝建設近くの料亭でも、当然ながら万太郎とあゆみはしこたま飲まされるのでありました。それはそうでありましょう。
 万太郎は然程いける口ではないのでありましたが、この日ばかりは差し伸べられる酌を断るわけにはいかないのでありました。万太郎が赤い顔であたふたと注がれた酒を干すのに比べて、あゆみが如何にも平然と注がれる儘に笑顔で杯を傾けていれば、将来の夫婦像が仄見えるようだとの揶揄が飛び交うのも宜なる哉と云うものでありますか。

 斜陽も今し方姿をすっかり潜めて帰宅のためか夕食を摂るためか、それともこれから一杯飲みに行くのか、多くの人が漫ろに或いは急ぎ足に歩く靖国通りを、万太郎とあゆみは連れ立って神保町から九段下の方に歩を進めているのでありました。良平夫婦が開いてくれると云う四人での小宴に向かうため九段の鋤焼き屋に向かっているのでありました。
 この辺りは以前に興堂派道場が神保町に在った頃、偶に出稽古や是路総士のお伴で出向く折にも、滅多に歩いた事はないのでありました。そういう時には万太郎は御茶ノ水駅からダラダラと坂を雷形に下って向かうのが常でありましたが、都営地下鉄が開通してからは、興堂派道場の最寄り駅は神保町と云う事になるのでありましょうが、便利になって暫くした頃にはその興堂派道場はここから葛西の方に立ち退いたのでありました。
 懐かしさもあって、万太郎とあゆみは九段下駅を通り越して神保町まで行ってから靖国通りを引き返しているのでありました。万太郎の方は学生時代に北の丸公園やら、靖国通り沿いに並ぶ古本屋、裏通りに在ったお気に入りの喫茶店等に偶に行く事もあったのでありましたが、この頃はもうすっかりこの界隈からはご無沙汰しているのでありました。
(続)
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