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お前の番だ! 563 [お前の番だ! 19 創作]

 姉弟子の提案、しかも今では、相愛の将来の伴侶たる者の提案でありますから、万太郎としても拒むわけにはいかないのでありました。まあ万太郎も、洞甲斐氏の甥っ子で、昨日捩じこんだ相手側の者がこうして早速に入門しに来たと是路総士に紹介する事に、些か面白味を感じはするのでありましたから敢えて拒む理由もないでありますか。
 是路総士の前で横着で不謹慎な真似を働かないか、その点が万太郎としてはやや不安でありましたが、師範控えの間に招じ入れられた真入増太は、是路総士の威と徳に一目で打たれたように、すっかり身を固くして縮こまって正坐しているのでありました。無骨で無神経そうに見えて、案外この男は素直な心根を持った好漢なのかも知れません。
「身長はどのくらいありますか?」
 是路総士が訊ねるのでありました。
「ああ、はい、百八十五センチです」
 真入増太はやや上擦ったか細い声で応えるのでありました。
「ほう。体重の方は?」
「最近は測った事がありませんが百キロ前後だと思います」
 百八十五センチ百キロの体が恐懼のために縮んでいるのでありました。
「貴方がこちらに入門する事に対して、洞甲斐さんはどうお考えでしょうかな?」
「知りません。昨日は折野先生が帰られた後、俺はすぐに八王子を去りましたから。それにその後は伯父貴には逢っていませんし、向こうからも連絡はありませんから」
「ああそうですか。そうすると威治君の事もご存じないでしょうな?」
「全然知りません」
 聞き様に依っては真入増太の言葉つきは、是路総士の知りたい辺りを簡単に素通りするような如何にも愛想のないものでありました。しかしこれは何か意趣があっての事ではなく、この男生来の一種の鈍感、或いは無邪気の然らしめるところでありましょうが。
「まあ、門下生となったからには、しっかりおやんなさい」
 是路総士はそんな激励でこの邂逅を締め括ろうとするのでありました。
「やっと、先生と崇められる人に出会ったのだから、俺も死ぬ気でやります」
 真入増太は眉宇に固い意志を刻んで決意表明をして見せるのでありました。ここでこの男が云う、先生、とは万太郎の事を差すのだろう事は、是路総士も何となく察しているようでありましょうが、彼の人はただ大らかに笑うだけで殊更その迂闊な不躾、或いは常勝流総本部道場に入門する者としての心得違いを正す事はしないのでありました。
 返って万太郎の方が傍で聞いていて冷や々々とするのでありました。目上の者、或いはその場に置ける序列の上下と云う点への配慮が、今まで学習してこなかったためか大いに欠けていると云うべきでありますが、まあ、これもその内に学ぶでありましょう。
 なかなかざっくばらんな人だな、とは是路総士が後に述べた感想でありましたが、大胆不敵とか慎みがないとか無思慮だとか評言しないのは、是路総士が真入増太にそこはかとない可笑し味、或いは好感を持ったが故でもあろうかと万太郎は考えるのでありました。まあとまれ、こうして万太郎の、実質の第一番目の直弟子が誕生した事にはなりますか。
(続)
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