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お前の番だ! 561 [お前の番だ! 19 創作]

 万太郎は真入増太を玄関前の受付兼内弟子控え室に通すのでありました。あゆみと来間も一緒に入るのでありましたが、来間には茶を持ってくるよう命じるのでありました。
「一生のお願いですから、どうぞ弟子にしてください」
 真入増太は畏まって正坐して、万太郎にもう一度同じ言葉を発して深いお辞儀をするのでありました。万太郎は処置に困じたように隣に座るあゆみを見るのでありました。
「いきなりそんな事を云われても。・・・」
 万太郎はあゆみから目を離して未だ低頭した儘の真入増太の方を見て、それから腕組みをしながらゆっくり天井を見上げるのでありました。
「昨日伯父貴の道場であっさりぶん投げられて、弟子になるしかないと決めたのです」
 真入増太はがばと頭を起こして、多分自分の持ちあわせている最上級の真剣な面持ち、らしきをして、万太郎に一直線の視線を向けるのでありました。
「ぶん投げられて弟子になるしかないと決めた、その間の仔細の説明がないからこの折野先生は困っていらっしゃるのよ。話しが如何にも唐突過ぎて」
 万太郎に成り変わってあゆみが横からそう諭すのでありました。真入増太に云っている言葉の中ながら、万太郎はあゆみに、折野先生、等と他称されたものだから、何やら急に臍の辺りがむず痒くなってくるのでありました。
「ピピピッときたのです」
 真入増太はそう云って自分の蟀谷に人差し指の先端を当てて見せるのでありました。
「ピピピッと、ねえ。・・・」
 あゆみが口真似をするのでありました。「つまり直感、みたいな事かしら?」
「そうです、そうです。直感です」
 真入増太はそれこそ我が意を得た言葉、と云った笑みを浮かべるのでありました。
「畳に叩きつけられた衝撃で、何やら妙な誤信号が頭の中に偶然発生したんじゃないかなそれは。で、投げたヤツの弟子になるしかないと、脳が勘違いしたとか」
 万太郎はそう云って微かに笑うのでありましたが、その云い方には特段、揶揄の響きは見られないのでありました。つまり万太郎の素直な分析、なのでありました。
「そんな事はありません!」
 真入増太は熱り立つのでありました。「勘違いじゃなくて、これは悟りです」
 何とも大袈裟な物云いに万太郎は何となくソワソワとして仕舞うのでありました。先程の、ピピピッ、にしても今の、悟り、にしても、どうやら真入増太はあんまり語句の適切なる選択に巧みであるとは云えない人物のようでありますか。
「折野先生に弟子にして貰えましたか?」
 茶を淹れて持ってきた来間が真入増太の前にそれを置きながら、ちらと横目で万太郎の方を窺いながら訊くのでありました。口元には含み笑いを湛えているのでありました。
 これは万太郎に対して、悪気からではないにしろ、揶揄がこめられた言葉でありましょうか。万太郎はそんな来間を睨むのでありましたが、来間は睨まれて慌てて口の端の笑いを消して、万太郎に不謹慎を詫びるように目礼を送るのでありました。
(続)
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