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お前の番だ! 559 [お前の番だ! 19 創作]

「しかし適任と云う点に於いて、あゆみさんの方が僕よりは諸条件が数段優っているだろうと思いますよ。それに女性が宗家になった実例も、稀ではあるものの実際あるのですから。あゆみさんが宗家を継いだ暁には、僕が全力でサポートして見せますよ」
「万ちゃんにそう云って貰うとそれ以上の心強さはないけれど、でも矢張り、事態がすんなり収まる処に収まるのは、万ちゃんが宗家になる事のような気がどうしてもするわ」
「僕はあゆみさんが宗家を継ぐ方が、事がすんなり落ち着くと思いますがねえ」
「でもあたしは逆の方が、処々の抵抗が少ないとどうしても思うのよ」
 この将来の見取り図の相違は、結局は水かけ論でありましょう。そんな水かけ論に折角のあゆみとの一時を潰されるのは、万太郎としては慎につまらないのでありました。
「その話しはここで我々があれこれ云うよりは、総士先生の裁定を待つとしませんか。総士先生なら諸般を考慮して、屹度最適な選択をされるでしょうから」
「まあ、それはそうだけど」
 そう云われれば、あゆみとしても一先ず口を閉ざさざるを得ないでありましょう。「それに確かに、こんな話しばかりじゃ折角の万ちゃんとのデートも台なしだものね」
「そうですよ。もっと気楽でウキウキするような話しをしましょう」
「判ったわ。じゃあ、宗家を継ぐのは絶対勘弁して欲しいと云うあたしの気持ちをもう一度念押しして、今日はこの話しは止めにしましょうね」
 何やらこう云って止すのは、あゆみに都合の良い話しの切上げ方のように万太郎には聞こえるのでありましたが、それでも延々続けるよりはましでありますか。あゆみもなかなかに頑固と云うのか意地っ張りと云うのか気が強いと云うのか、・・・まあしかしそんなところも、万太郎が心魅かれたあゆみの美質と云えば云えるのではありましょう。

 その日の夕方、思いがけない男が万太郎を訪ねるため、総本部道場の門前に立つのでありました。偶々新宿から丁度戻って来た来間が、門横で名乗りを上げようかどうしようかと躊躇っている不審なる男を認めて、自分から声をかけたのでありました。
「折野先生に逢いたいと云って、何やら無愛想な図体のデカい男が来ていますが」
 食堂で夕食の用意をしているあゆみの周辺を、いそいそと手伝うような邪魔するような風情で動き回っている万太郎に、来間が入り口から声をかけるのでありました。万太郎は動きを止めて来間の方に顔を向けるのでありました。
「無愛想な図体のデカい男?」
 そう云われても万太郎には確たる覚えがないのでありました。
「名前を聞いたのですが、逢えば判ると云って名乗りません。取り次いでくるからと取り敢えず玄関に待たせていますが、何やら佇まいが、見様に依っては喧嘩腰のようにも見えますから、何でしたら自分が追い返して仕舞いましょうか?」
「いや、何だか知らないが態々訪ねて来たのなら、逢ってみようか」
 万太郎はそう云って来間の脇を抜けて玄関の方に歩むのでありました。門下生なら来間も知っているでありましょうが口ぶりからすれば全くの初対面の男のようであります。
(続)
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