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お前の番だ! 354 [お前の番だ! 12 創作]

 花司馬筆頭教士の言葉に万太郎の身が益々縮むのでありました。
「さて、どうですかな、最近の道場の様子は?」
 是路総士が話頭を変えるのでありました。万太郎はやや背筋を伸ばすのでありました。
「ええ。ようやく多少は落ち着きましたでしょうか。しかし一応今のところ、前の稽古時間の儘でやっているのですが、道分先生がいらっしゃらないと、矢張り何となく稽古が空疎な感じが致します。門下生達も、もう一つ前みたいな気持ちの張りがないような」
「まあそれは、今は仕方がないでしょうな。しかし時間が解決してくれるでしょうよ」
「そうであれば良いのですが」
 花司馬筆頭教士は自信がなさそうに云うのでありました。
「長く道場をやっていると、竹に節があるように代わり目が時々やって来ます。その時は色々まごつくのですが、暫く時間が経てば何となく落ち着くところに落ち着きます」
「大局的には総士先生のおっしゃる通りなのでしょうが、自分としては落ち着き処に落ち着く日が、未だこれから先当分はやって来ないような、そんな気がしております」
「屹度、過ぎて仕舞えば、・・・みたいな風にその内なりますよ、その内に」
「激励のお言葉、痛み入ります。しかし自分としては実は、その落ち着き処、と云うのが今一つ明確に像として掴みきれなくもあります」
 花司馬筆頭教士は深刻そうな表情で目を伏せるのでありました。
「つまり、これから先の道場の体制をどう持っていくのかが、未だ曖昧な儘だと?」
「道分先生は前から、技術は花司馬で運営は威治、なんとおっしゃっておられましたが、なかなかそう云う分担が上手くいかないところもありますし、私にしても興堂派の技術を任されるだけの技量が、今だに充分足りているとは自分でも思えませんし」
「技術は花司馬で運営は威治、というのは私も前に道分さんから伺った事があります」
 是路総士はそう云って頷くのでありました。「道分さんがそうおっしゃるからには、しっかりとした根拠がそこにあったからですよ。私が見ても今の興堂派を技術面で引っ張って行けるのは、花司馬さん、貴方以外には見当たらないと思いますよ」
「大変有難いお言葉に感謝申し上げます。しかし自分には道分先生程に門下生や財団関係者の心服を得るだけの、体術と剣術の技量は勿論、人望も名徳も全くありませんし」
「それはこれからの貴方の精進次第でしょうよ。なあに、大丈夫ですよ」
 是路総士はそう力強く云い募るのでありました。
「総士先生のご期待に添いたいのは山々ですが、心許ないと云うのが正直なところです」
 花司馬筆頭教士はその後口を噤んで項垂れるのでありました。
「私も、興堂派のこれからに対して出来るだけの後見はいたす所存です」
「技術と云う面においても、興堂派のこれからと云うところでも、自分としては出来る限りの努力はいたす心算です。ここが踏ん張りどころだとは、自分もちゃんと判っています。総士先生、どうかご助力を、よろしくお願い致します」
 花司馬筆頭教士は項垂れた頭を更に下げてお辞儀をするのでありました。それは今までに万太郎が見た事のないような、如何にも儚げな彼の人の物腰でありました。
(続)
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ネオ・アッキー

あけましておめでとうございます 
旧年中は大変お世話になりました 今年も何卒よろしくお願い致します
by ネオ・アッキー (2016-01-03 02:29) 

yam

後れ馳せながら、新年明けましておめでとうございます。

今年も、引き続き宜しくお願いします。
by yam (2016-01-03 15:13) 

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