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もうじやのたわむれ 207 [もうじやのたわむれ 7 創作]

 コンシェルジュから娑婆にいた永井荷風みたいな作家がこちらにもいて、この深草をこよなく愛したなんと云う事を聞いていたものでありますから、娑婆の浅草にあったそのような店等も、名前は少し違うかも知れませんが、屹度あるに違いないと拙生は想像するのでありました。そんな事を考えていると、初めて訪ったはずのこちらの世の深草と云う街も、不思議に馴染み深く味わいのある街に思えてくるのでありました。
 次の訪問地のお茶のお湯では、帰去来堂と云う教会を見学した後、外堀川と云う小川に架かる、捻り橋、と云う、橋脚に幾つかのアーチを並べた趣きのある、コンクリート造りの橋を眺めたりするのでありました。昔は郡電(娑婆で云えば国電と云う事になりますか)、現在はYRと呼ばれている電車の、お茶のお湯駅と云うのがあって、その近辺には喫茶店やら中華料理屋やら、定食屋やらファーストフード店やらの様々な飲食店、それに本屋とか楽器屋とかスポーツ用品店等が軒を連ね、大勢の霊で賑わっているのでありました。
 この界隈は学生街であると逸茂厳記氏が紹介してくれるのでありましたが、確かにギターケースやらテニスラケットやらを手にした若い男女の霊が、笑いさざめきながら闊歩する光景が至るところに見受けられるのでありました。それにまた、電車のお茶のお湯駅前の広場では青いヘルメットを被って、タオルで顔の半分を覆った学生と思しき群れが、拡声器で革命を悲壮な声で叫び、通行する霊達に手当たり次第にビラを配っているのでありました。これは拙生が学生だった時分の娑婆の、お茶の水の駅前そっくりでありました。
 お茶のお湯駅は丘の上にあって、そこから坂を下って行くと神保町と云う街があるのだそうでありますが、そこは古本屋街だと云う事でありました。これも娑婆とそっくり同じであります。昨日友達になった亡者の鵜方三四郎氏と、邪馬台銀座商店街の喫茶店カトレアで話した、ラドリオとか神田伯剌西爾とかの喫茶店や、豚カツや天丼のいもやとか洋食屋のランチョンとかの、娑婆にあった店のこちらの世版が屹度あるに違いありません。まあ、これも深草の時と同様、後の予定がつまっているので探索は諦めるのでありましたが。
 その後に訪れたのは葛飾帝釈天であります。
「ここは帝釈天を祀る題経寺というお寺の門前町ですが『フーセンの猪さん』と云う映画で有名になったのです。それまでは鰻とか川魚料理が名物の鄙びた街だったのです」
 逸茂厳記氏が解説するのでありました。
「フーセンの猪さん?」
「ええ。正しくは、フーセンの亥さん、ですが」
「何ですかその映画は?」
 拙生は何となく想像がつくのでありましたが、敢えてそう問うのでありました。
「風船みたいにふわふわと居所を定めず、ちゃんとした仕事もせずにお気楽に行き当たりばったりに人生を送る、鞍馬亥次郎と云う名前の男が主人公の人情ドラマです」
「その映画が大当たりして、俄かに脚光を浴びたのですね、この街が?」
「そうです。その亥次郎が葛飾柴又の出身で、亥次郎の妹が親類のやっている団子屋を手伝っていましてね、その団子屋を中心に様々な悲喜劇が展開するわけです。もう何作もシリーズ化されていて、郡霊的人気映画となっております」
(続)
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