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もうじやのたわむれ 6 [もうじやのたわむれ 1 創作]

「ふうん、そう云う事情があったのですか」
 拙生は何度か頷いて見せるのでありました。
「貴方は、こちらに回って来た情報に依ると今回奪衣婆港から乗船されましたが、そもそも、三途の川の渡河船が発着する港湾は三か所あるんです。三水の瀬港、江深の淵港、それに奪衣婆港です。まあ娑婆の方では奪衣婆港は奪衣婆橋となっていると聞き及んでいますけど、三途の川の川幅とその水深を考慮すれば、そんな長大な橋なんか、こちらの最先端の架橋技術を以てしても架けられるわけがない。で、あれは向こうには古びた木造の橋梁であると伝わっているようですが、貴方もご覧になった通り、正しくは港湾です」
「こちらの地名とか港の名前とかは、私はあんまり詳しくはないので、なんとなくはあそうですかと云うしかありませんが。・・・」
 拙生はそう云って頭を掻くのでありました。
「まあ、それはそうでしょうな。それは仕方がない。ま、つまり、要するに三か所の港湾があるわけですよ」
「それは、乗船する側の港湾ですね、向こう岸の?」
「はいそうですね。こちら側は一か所です。三か所から出て、こちらの一か所の港湾に着くのです。ですからこちらの港湾設備は結構大規模だったでしょう?」
「そうですね。これ程立派な港は見たことがありません。桟橋が五つもあって、下船手続きをする建屋も大きくて、窓口が幾つも幾つもあって。まるで空港のようでした」
「ま、こちらの表玄関ですから」
 審問官は少々誇らし気な顔つきをするのでありました。「いやまあ、それはそれとして兎に角、その三か所の向こう岸の港湾の内、特に評判のよろしくないのが奪衣婆港の官吏でしたので、まあ奪衣婆、つまり正塚の婆と云うイメージが生まれたわけでしょうね」
 審問官は手に持っていたボールペンのキャップの方で、テーブルの端をコツコツと叩くのでありましたが、それは特に意味のない仕草のようでありました。
「確かに、あの近代的で清潔な感じの港には、そんな陰鬱でおどろおどろしげな婆さんなんかが居そうにありませんかな、云われてみると」
 拙生はゆっくり幾度か顎を上げ下げさせるのでありました。
「今は閻魔庁の、罰則を伴った強い指導がいき渡っておりますから、そんな不逞の官吏はもういないはずなのです。まあしかし、何時の世もどの世界にも不埒な了見を起こす輩はおりますからね、もしご不快なことがあったのなら、遠慮なく仰って頂きたいわけです。特に奪衣婆港から船に乗られた方には。こちらとしては今後のこともありますからね。それにもし貴方がそれをここで喋ったからと云って、貴方になんの不利益も発生しませんことを、一応申し添えさせて頂きます」
 審問官はボールペンのコツコツを止めて、拙生の方に軽く一礼して見せるのでありました。その所作に釣られて、拙生も一礼を返すのでありました。
 徐に記録官がふり返るのでありました。
「お茶のお代わりは如何ですか? なんなら今度はコーヒーでも」
(続)
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こおりやま

 押忍、ブログのタイトルのあまりの素晴らしさに感動して思わずコメントをさせて頂きました。仕事で腰痛に苛まれたり看護師になまいきとかいわれたりして悪戦苦闘していますが先生との約束を思い出し今しばらく続けていきたいと思っています。これからブログを読ませていただきます。
by こおりやま (2011-12-10 19:36) 

汎武

おお、こおりやま君、元気ですか。
たまには道場へ顔を見せに来てください。
無念無想で10年頑張れ。
by 汎武 (2011-12-10 20:14) 

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